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そして、また、秋の風。
絵描きが死んだ。十一月のはじめのことで、枯れ葉さらって北風が、寒々と、淋しくないよと嘯く男の見栄の上着を剥ぎ取ってでもいるように、錯覚すらする日のことだった。
「ロクが死んだよ」
無表情を装って新聞屋は告げた。あんまりあっさり言ったものだから、うっかりしていたら昨日の晩飯の話かなんかだと思って聞き流していたと思う。だが、こいつはそんな下らない話をするために、おれを訪ねやしないだろうし、報告前に唇の端っこがやたらに緊張していたし、だいたいヤツが死ぬことは、おれたちみんな予想していたことだから、一字一句逃さずに、おれは聞くことができたのだった。
それは考えていたよりも、ずっと淡白な音だった。答えたおれの声もつまらなかった。
「そうか。死んだか」
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