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わらわらと群がって見た絵日記は、いつでも色が塗られてあった。光が描かれてあった。いつ描いたものなのか。彼の師の見立てでは、この家に来たばかりの頃かもしれない、とのことである。素人のおれから見ても、なにか親しげな目線の絵であった。
画帳の他にも部屋の中にはたくさんの絵があった。似顔の中には見知った顔が幾人もあって、同じ人間を様々に何度も描いてもいた。もちろん、一番多いのはおさげの娘の絵であった。絵の中で、娘はいつもほっそりした指に花を一輪、観音像みたいに持っている。そのための植物図譜だったのかもしれない。
町の雑踏のスケッチもあった。おれの家の絵もあった。眼鏡の散らかって畳の見えない部屋もあったし、道端のねこの絵には「なつこ」と勝手につけた名前まで、見慣れた文字で添えられていた。
この家の庭があった。春も夏も秋も冬も、アイツの筆で描き留めてあった。そこの寺、あそこの神社、角を曲がった空き地の野良犬。
初めてアイツに会ったのは、牛乳こぼした雪の日で、そのときに見たスケッチに惚れ込んで、おれはずっとアイツの風景画を愛してきた。昼も夜も生きていて、光と影と湿度があった。そういう絵が、幾枚も、幾枚も、この室内には残されていた。
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