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「ロクのやつが生きてたら、今頃あの辺でスケッチしているだろうから、代わりに写真に撮ってやるんだよ」
若い絵描きが死んだところで、地球が止まっているはずはなくて、やがて西の空に季節外れのアカネが飛んで、カラスも鳴いたし帰りましょう。
師匠と弟子がたった二人で暮らした家に、今夜は弔いの火が灯る。おれは帰り道に明る瓦斯灯の向こうにヌっと手を突き出した。秋の風が空っぽの掌を抜けていく。背伸びをしても、なんにも、指の先にも触れなかった。
二週間ばかり過ぎた頃、また新聞屋がやって来て、絵師の家に行かないかと誘われた。
「となりの婆さんが飯の面倒見てくれてたろ。こないだ偶々会ったんだが、イチさん、すっかりしょげちゃって、見てられないって言うんだよ。あの先生も若くないからサ」
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