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「しーちゃん、ごはん行こうよー」
舞台のあと、白井は雫にそう声をかけてみたが「バイト」と短く断られてしまった。最近はバイトじゃなくても断られる確率が高く、その最たる理由は雫の相方兼恋人である真杜のせいだ。
(なんでノンケのふたりが付き合って半同棲までしてんのに、なんで俺には恋人がいないわけ!?)
あまりに理不尽すぎると白井は思う。
「じゃあ、真杜でいいや。どうせ、しーちゃん帰ってくるまで暇でしょ」
「どうせってなんだ。その前にいいやってなんだよ」
「しーちゃん、真杜借りるよ」
「好きにしろ」
「じゃあ、うのちゃんのお店に行こうかな」
好きにしろと言われた腹いせに、だったらおまえの店に行ってやるぞと笑顔で返す真杜に、雫は「俺が帰るまでには帰ってこい。だから俺んとこくんな」と言い残しさっさと控え室をでていった。
「え、なに今の。だからの意味がわかんないんだけど」
疑問符を飛ばす白井の傍ら、真杜はにやにやと笑っている。
「今の超かわいいじゃん。好きにしろとは言ったけど俺が帰るまでにはおうちで待っててね、かわいいこと言ってやったんだから俺のバイトじゃましにくんな。ってことでしょ」
「……わかりづら」
完全にのろけられ、胸の奥がざわりと変な音をたてる。羨ましい。そんな想いが白井の心に刺のように刺さって痛くて仕方ない。
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