第2話【膝を抱えたアップルパイ】

4/12
前へ
/251ページ
次へ
「しーちゃん、ごはん行こうよー」  舞台のあと、白井は雫にそう声をかけてみたが「バイト」と短く断られてしまった。最近はバイトじゃなくても断られる確率が高く、その最たる理由は雫の相方兼恋人である真杜のせいだ。 (なんでノンケのふたりが付き合って半同棲までしてんのに、なんで俺には恋人がいないわけ!?)  あまりに理不尽すぎると白井は思う。 「じゃあ、真杜でいいや。どうせ、しーちゃん帰ってくるまで暇でしょ」 「どうせってなんだ。その前にいいやってなんだよ」 「しーちゃん、真杜借りるよ」 「好きにしろ」 「じゃあ、うのちゃんのお店に行こうかな」  好きにしろと言われた腹いせに、だったらおまえの店に行ってやるぞと笑顔で返す真杜に、雫は「俺が帰るまでには帰ってこい。だから俺んとこくんな」と言い残しさっさと控え室をでていった。 「え、なに今の。だからの意味がわかんないんだけど」  疑問符を飛ばす白井の傍ら、真杜はにやにやと笑っている。 「今の超かわいいじゃん。好きにしろとは言ったけど俺が帰るまでにはおうちで待っててね、かわいいこと言ってやったんだから俺のバイトじゃましにくんな。ってことでしょ」 「……わかりづら」  完全にのろけられ、胸の奥がざわりと変な音をたてる。羨ましい。そんな想いが白井の心に刺のように刺さって痛くて仕方ない。
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

602人が本棚に入れています
本棚に追加