第2話【膝を抱えたアップルパイ】

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 神経質そうにおしぼりで手を拭きながら、真杜が白井に告げる。 「うのちゃん、十時に帰ってくるから八時までな」  現在の時刻は午後の六時を少しまわったところだ。 「は? なんで二時間前なわけ?」 「うのちゃんが帰ってくるまでに洗濯とか済ませておきたいし」 「主夫か」  真杜は誰かのためになにかをする男ではない。それらは常に自分のためであり、自分がそうしたいからするのであって、決して雫のためにするのではないと白井は知っている。真杜のそういうきっぱりとした考え方が、白井は好きでもある。  だからこそ真杜の前ではなんでも話せるが、自分がゲイだということは未だに言えずにいた。 「とりあえず、なに飲む?」  メニューを開き真杜のほうへと差しだすと、じっと観察するような目で見られ、白井は意味もなくどきりとする。 「なに?」 「いや、白井はいつも先にメニュー見せてくれるなと思って」 (は? メニュー? なになに? どういう意味?)  自然とやっていることだ。だから、改めてそんなふうに言われると、どこかなにかおかしいのだろうか? と白井は不安になってしまう。
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