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神経質そうにおしぼりで手を拭きながら、真杜が白井に告げる。
「うのちゃん、十時に帰ってくるから八時までな」
現在の時刻は午後の六時を少しまわったところだ。
「は? なんで二時間前なわけ?」
「うのちゃんが帰ってくるまでに洗濯とか済ませておきたいし」
「主夫か」
真杜は誰かのためになにかをする男ではない。それらは常に自分のためであり、自分がそうしたいからするのであって、決して雫のためにするのではないと白井は知っている。真杜のそういうきっぱりとした考え方が、白井は好きでもある。
だからこそ真杜の前ではなんでも話せるが、自分がゲイだということは未だに言えずにいた。
「とりあえず、なに飲む?」
メニューを開き真杜のほうへと差しだすと、じっと観察するような目で見られ、白井は意味もなくどきりとする。
「なに?」
「いや、白井はいつも先にメニュー見せてくれるなと思って」
(は? メニュー? なになに? どういう意味?)
自然とやっていることだ。だから、改めてそんなふうに言われると、どこかなにかおかしいのだろうか? と白井は不安になってしまう。
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