602人が本棚に入れています
本棚に追加
白井は素直で天真爛漫で、誰に対しても壁を作らない。しかし、相方である武内にだけはどうしてか微妙に距離を置き、見えない薄い壁を一枚張っているように真杜には見える。口答えもせず従順に武内のそばにいる大きな犬。真杜の目には、ずっとそんなふうに映っていた。
白井は、真杜にも雫にも、うるさいくらいなんでも話し、誰に嫌われても平気だと公言しているが、武内に対してだけは嫌われないよう必死になっている。
「は、はは。武内さん?」
白井の頭の中、否定の言葉がぐるぐるまわるが、どれひとつとして声にならない。
どうして? なんで? そんなにも自分はあからさまだったろうか? と、白井はだんだんと顔色をなくしていった。
「安心しろよ。俺しか気付いてない。つうか、俺しか気付けない」
顔面蒼白になってしまった白井を見て、直球すぎたことを真杜は後悔した。
「き、気まずくなったりしない?」
「は? 誰と誰が」
「俺と真杜が」
「なるわけないじゃん。なに言ってんの、おまえ?」
「黒沢いたじゃん」
「黒沢? あー、おまえの元相方な」
なぜ急に黒沢の名前がでてくるのかが、真杜にはわからない。白井と黒沢で『パンダ』というコンビ名で活動していたのは、たったの一年だ。
「……ゲイだって言ったら、気まずいって言われて、それで解散になったから」
最初のコメントを投稿しよう!