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白井がどうして今までゲイだと言わなかったのかがようやくわかって、真杜はもう顔も覚えていない黒沢を頭の中で殴打した。
「そんなやつとは解散して正解だよ。ていうか、俺がそんなやつと同じ人種だとでも思ってたわけ? ふざけんなよ、ばか」
白井の目にうるうると水の膜が張られるのを見て、真杜はため息をついた。
「泣くな」
色素の薄い大きな瞳は、まるで水たまりのようで、そこからこぼれ落ちる涙がテーブルの上で弾け散る。
こんなふうにあっさりと黒沢にも受け入れられるものだと白井は思っていたのだ。だから相方だった黒沢が、それを受け入れられないどころか、気まずいと言って解散にまで至った経緯は、白井にとってはちょっとした衝撃だった。
『そんなこと』すら寛容に受け入れられない男を相方に選んでしまった自分の見る目のなさを恨み、新しい相方は絶対に寛容な大人を選ぶと決めていた。それが武内だった。
しかし、白井はここでもまた人選ミスを犯していた。確かに武内は大人で寛容である。短気で怒りっぽく、頑固で理屈っぽい。ひたすらに真面目で昔かたぎ。ここまではいい。
白井のたったひとつの誤算。それは、うっかり武内に惚れてしまったことである。最初から見た目も雰囲気も好みのタイプではあった。だが、相方に選んだ理由は『大人で寛容』。だからこそ自分の性癖をも受け入れてくれると思った。
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