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翌日。木津は劇場の控え室にいた。基本的に活動の拠点は大阪だが、毎週金曜だけは東京の舞台に立つ。今日がその日だった。
白井と一夜を共にしてからまだ二日しか経っていない。互いに、すっ裸でベッドを共にしなにもなかったはずが、どうしてだか別れ際には白井にキスをされてしまった。そのことが木津の頭から離れていかない。
(あれはどういう意味やねん。なんや? 俺が知らんだけで白井はハーフでキスは挨拶とかなんか?)
そんなはずはないとわかってはいるが、そうであったらいいと木津は思う。顔を合わせたら、普通にいつものように、何事もなかったかのように接してくれるものだとばかり思っていた。それなのに白井は先ほどから目も合わせようとしない。
(はあ!? なんでなん!? なんで目ぇも合わせてくれへんねーん!!)
挨拶はした。キスではない、普通の挨拶を普通にした。だが、それだけだ。それっきり白井は木津に話しかけることもなく、目も合わせてくれない。
(なんやねん、あいつ!!)
ふとした瞬間に視線は感じるものの、木津が白井のほうを見ると、ふいっと逸らされてしまう。もしかしたらキスをしたことを、今さら気まずく感じているのかもしれないと木津は思う。
木津は睨むように白井のふわふわとした蜂蜜色の髪を見つめた。こちらを向いてくれないので、髪を眺めるよりない。木津から微妙に距離をとり、決して目を合わせないようにするくせに、甘ったるい香水だけはやけに香りを主張してくる。
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