第3話【角の尖ったショートケーキ】

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 見れば白井のショートケーキは手付かずのままで、イチゴが乗っていた部分だけがぽっかりと空いている。 「好きって言ったってまともには取り合ってもらえないから、相手がいいよってくれる部分だけもらうの。腹ペコでなんでもいいから食べたいって時あるじゃん? それと一緒。食べられるものを食べるの。まぁ、あの人は一口も食べさせてくれないと思うけど」  ショートケーキを倒さない食べ方が正しい順序なのだとしたら、白井の恋愛は常に食べる前に終わってしまう。好きだと、付き合ってほしいと、そう伝えるのが最初の手順だとわかっている。だけど、それではあっけなくフラれて終わるのだ。  男女の恋愛なら、告白して例え相手のことがそんなに好きじゃなくても、なんとなく付き合いがはじまることだってある。しかし白井の場合は、男だというだけで「なんとなく」すらはじまらない。  だとしたら順序など白井には不要で、どこまでなら許してもらえるのか、そのギリギリで空腹を満たすよりないのだ。   「スポンジに挟まってるイチゴが心だとしたら、俺は上に乗ってるイチゴとうわっつらの生クリームしか食べさせてもらえない。それはもう恋愛とは呼ばないのかもしれないけど、食べなきゃ餓死するじゃん?」  それは今までの白井の恋愛遍歴を意味している。イチゴだけ。生クリームだけ。うわっつらの身体だけの関係。 「……食べぇや」  それ。と、木津が白井のケーキを指さす。 「スポンジと生クリームとイチゴ。一緒に食うからうまいんやろ」
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