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白井にほだされかけている。こんな名義貸しのようなことをしても、いいことなんかなにひとつなく、むしろ面倒に巻き込まれるだけだということはわかっている。わかってはいるが、木津はハッキリと断れずにいた。
「聞くけど、おまえの好きな人って俺の知ってる人?」
「…………武内さん」
「……は、いや、待て。待てや、おまえ」
それは困ると木津は思う。困るというか怖いのだ。超がつくほど頑固で真面目で、筋の通らないことを最も嫌う男だ。そんな武内に嘘をつくなど、木津には到底できない話だった。
「白井くんさぁ、こんなん言うて悪いけど無理なんちゃうかなぁ?」
「なに、急に気持ち悪い喋り方して」
「気持ち悪い言うな。一応先輩やぞ!」
木津に言われなくても無理だということは、白井は百も億も承知だ。しかし、これは不可能を可能に変える男、中島真杜の全面バックアップ案件なのである。
「真杜が協力してくれるって」
「あー。中島な。あいつならやりかねんけども、さすがに武内さんは俺が無理や。絶対睨まれるやん」
「だからだよ。武内さんが、こいつなら安心して白井を任せられるって思う相手じゃダメなんだって」
「え、さらっとディスってない?」
つまりは木津と付き合うと武内に宣言することにより、まずは男同士で? という軽いジャブ。そして「なんでこいつと?」と思うことにより、白井のことが心配で気になって仕方なくなるという流れ。
「協力はしてやりたいけど、俺はどうなんねん。一応、彼女もおるし」
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