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話があると呼びだされ、武内が向かったのは白井が住むアパート近くにある公園だった。稽古場の予約がとれない時は、その公園でよく漫才の稽古をしている馴染みのある場所だ。
「白井」
十一月の夜はさすがに冷える。近くの自動販売機で買ってきたホットコーヒーの缶を、武内はベンチに座っている白井に軽く放った。
「ありがとうございます。すみません、こんな時間に」
「いいけど、どうした?」
武内から受け取った缶コーヒーを手の中で転がしながら、白井は慎重に言葉を選んだ。
「報告があります」
「報告? なに」
隣に座った武内の、大人っぽいチェスターコートの裾を見つめ、白井はぐっと喉に力を込めた。
「お付き合いをすることになって」
白井の言葉に武内は一瞬呆けた。しおらしく「お話があります」と言われ、一体なんの話かと若干緊張していたのだ。もしかして解散でも言い渡されるのではないかと、ほんの少し弱気にもなっていた。
「ふ、ははっ。なんだよ、おまえ。そんなこと俺にいちいち報告しなくても」
ばかだなと言いながらも、武内は嬉しさを隠せないでいた。今まで武内は、白井からその手の話は聞いたことがない。だから、わざわざ報告してくれるのが嬉しくてかわいくて仕方なくて、武内は白井のふわふわとした金色の髪をふわりと撫でた。
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