602人が本棚に入れています
本棚に追加
白井はそう言うが、木津には断片的に記憶がある。
『俺、ゲイだから』
この部屋で白井は確かにそう言った。他の記憶は飛んでいるが、それだけは衝撃の大きさから木津はハッキリと覚えている。
「木津さんね、今の彼女さんとは別れたほうがいいよ」
抱きしめていた腕をすっと外し、起きあがって背伸びをする白井の姿に、木津は目を奪われた。
カーテンから差し込む陽の光の中、なにもまとわずに無邪気に伸びをする姿は、まるで生まれたての大きな天使のようだ。ふわふわした金髪がキラキラ光り、背中に羽根が見えた気がして、木津は慌てて瞬きを繰り返した。
「聞いてる?」
「聞いてる……服、着ぃや」
「よっつ年上の二九歳で八年も付き合ってたら、そりゃあ責任とらなきゃって気持ちにもなると思うけど、ぶっちゃけ情だけで続いてんでしょ?」
「は……はは、俺そんなこと話した?」
「話したよ。しかも更科さんのお姉さん、でしょ。それは責任重大だよね。でも、別れるなら一日も早く別れてあげないと、二九歳が今から結婚相手探すのは大変じゃん?」
白井の言っていることは事実ではあるが、木津は別れたいとは思っていない。ただ最近少しうまくいっていない、それだけだ。だからなぜ、別れること前提で白井が話を進めるのかが木津にはわからなかった。
「別れたいなんて思ってへんよ」
「それは木津さんの気持ちでしょ。美憂さんは、どう思ってるかな」
最初のコメントを投稿しよう!