602人が本棚に入れています
本棚に追加
ハッキリと名前をだされ、木津の脳裏に美憂の顔が浮かんでくる。最後に会ったのはいつだったか。それすらも思いだせない。嫌いになったとか飽きたとか、そういうわけではない。ただ、結婚という漢字二文字が、木津には重いのだ。
木津は、まだ二五歳だ。男なら結婚は三十を過ぎてからでも遅くはないが、女は違う。結婚の次に出産がある。美憂はもう二九歳で、白井が言うように次を探すのも困難な年齢だ。だからこそ、早く。早く結婚をと木津は思ってはいるのだが、どうしても踏みだせずにいる。
「……言われてんねん。さらんちのおかんにな、お金のことなんか心配せんでええからはよ美憂をもらったってくれ、って」
「そりゃ、親はそう言うでしょうよ。大事な娘なんだから。俺が言ってんのは、そういうことじゃなくて、木津さんのそれは恋なの? ってこと」
「恋……?」
付き合いはじめは確かに恋だったかもしれないが、八年も経ってしまうと恋かどうかと聞かれても困ってしまう。
「白井、恋愛なんて三年も経てば冷めるねん。そっから先は情と思いやりや」
「ふーん。俺はそうは思わないけどね。嫌いじゃなくて特に別れる理由もないから、だらだら付き合って情とか思いやりって言葉でごまかしてるだけでしょ。女の人は、そういうのに敏感だよ。早く決着つけないと木津さんのほうがフラれちゃうかもね」
てきぱきと服を着ながら、かわいい顔と声で辛辣な言葉を浴びせられ、白井ってこんなやつだっけ? と木津は驚いていた。
(全部あたってるだけに、なんも言えへん……)
最初のコメントを投稿しよう!