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ベッドから出てキッチンに向かうと、すでに起床してコーヒーを淹れてくれている彼の姿があった。
薫り深い空気に包まれた、なにげない朝の風景。絵に描いたような幸福に、無情にも愛おしさがこみあげる。
おはよう、と声をかけた。
私に気づいた彼は、少し寂しげに眉を下げたあと、静かに、とても穏やかに微笑した。
「今朝は一段と冷えるね」
その優しい低音が、少しだけ、似ている。
――愛しているよ
あなたの声が、耳元で冷たく響いた。
【了】
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