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こめかみに涙が伝うのを感じた。本掛け布団に包まれた悲哀の中、だんだんと意識がはっきりしてくる。途端、背後にぬくもりを感じ、私は勢いよく背をひねった。
そこには誰もいなかった。たしかに、気配がしたのに。コーヒーの香りも、その声も、たしかに感じたのに。
夢と現実の狭間で悄然と揺らいでいると、突如、目の前にある事実が襲いかかってきた。
気の遠くなる思いがする。そして、怒りにも似た哀しみが湧きあがる。こんな気持ちをずっと抱えていかなければいけないなんて。
――ねえ、私、あなたを裏切っていたのよ
私はこれからも、自責の念と未練を背負い、赦しを請い、それでも生き続ける。
――だから、もう言わないで
あなたがいなくなった今、ふたりでいたときよりも強く、あなたを感じる。
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