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第56話 掛け替えの無い存在。
「文月ー!起きてー!」
咲良の声で、文月は寝惚け眼を薄っすらと開いた。朝に滅法弱い文月は、思考が働いていない状態で身体を起こすと、困惑した表情を浮かべている咲良と目が合った。
「ねぇ…何で泣いてるの?」
『…え?』
(泣いてる?誰が?俺が?)
文月は指先を頬に這わし、自身の目縁が濡れている事に気が付いた。
(昨夜見た夢のせいか?水無月が俺の元から去って行ってしまう…そんな夢だった。)
思い出しただけで背中に冷や汗が伝う。
「文月。大丈夫?」
『あー…余り覚えていないけど、怖い夢を見てた気がする。』
「ふふっ。何それ、子どもみたい。」
『そうだな…』
「朝食出来たよ。食べよ!」
『料理作ったのか?お前が?』
「ホント失礼な奴ね。私だって少しぐらいは作れる様になったわよ。先に顔洗って来て。」
『はいはい。』
文月は苦笑しながら洗面所に向かい、洗顔と髭剃りを済ませると、席に着いた。卓上には、焦げ目の付いたトーストが皿の上に乗せられていた。
『何も無いよりは、マシだな…頂きます。』
トーストに齧り付くと、咲良がキッチンから戻って来た。
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