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第59話 着信履歴。
文月は玄関口で靴を履きながら違和感に気付く。
『あれ?』
「どうしたの?」
『携帯電話が無い。』
「部屋に置き忘れてるとか?見て来れば?」
『そうだな。少し待っててくれ。』
リビングに戻り、ソファーやテーブルの下を探したが見当たらない。
(寝室か?)
今度は寝室に行き、クローゼット付近を探してみたがやはり見つからなかった。
「どう?有った?」
『いや。咲良、悪いが俺の番号に掛けてみてくれ。』
「うん。」
咲良は自身の携帯電話をバッグの中から取り出し、文月の番号に掛けてみるが、呼び出し音だけが聞こえ、着信音を耳にする事は無かった。
「ねえ。もしかして、車に置き忘れてるんじゃないの?」
『ああ、そうか。お前を迎えに行く時に携帯電話を持って出掛けたんだった。きっと車の中に忘れて来たんだな。』
「ちょっとー。オジさん。もう物忘れする様になったの?しっかりしてよ。」
『誰がオジさんだよ。俺はまだ23歳だぞ。』
「もう少しで24歳になるでしょ。不毛な言い争いは止めにして、早く行くわよ。」
(口火を切ったのは、お前の方だろ?と言いたいところだが、それを口にしたら不毛な言い争いが続くに違いない。)
文月はそれ以上言い返す事はせずに、駐車場に向かって足取りを速めた。車に乗り込み、携帯電話を探し始めて間なしに、後部座席の足元に落ちているのを目にした。
「有ったの?」
『うん。見つけた。』
手を伸ばし、携帯電話を拾い上げると、咲良が不思議そうな表情を浮かべ、尋ねて来た。
「後ろに落ちてたの?」
『ああ、後部座席から傘と上着を取った時に胸ポケットから落ちたんだろうな。気が付かなかったよ。』
「あー。迎えに来てくれた時に雨が降ってたからね。」
文月は運転席に座り直し、携帯電話の画面に目を向けた途端、眉を顰め独りごちた。
『どういう事だ?』
「どうかしたの?」
『いや。知り合いから着信が入ってたんだが…』
画面には、先程咲良から発信された一件の他に、周からの着信履歴が表示されていた。周が電話を掛けて来た時刻を見てみると、文月と咲良がリビングで話をしていた頃に幾度も掛けられており、最後の着信は少し間を置いて、一度だけ掛けられていた。
(メッセージは…残されていない。何故、こんな深夜に幾度も連絡して来たんだ?)
言い様の無い不安が心を支配し、文月は険しい面持ちで、周に電話を掛けた。
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