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第65話 負の感情。
「周…」
『文月とお前の問題だ。俺が出る幕じゃないって事も良く分かってる。それでも、アイツに言ってやりたかった。水無月を泣かせるなって。辛い思いをさせるなって。』
「ごめん…」
『どうしてお前が謝るんだ?俺が勝手に文月に電話を掛けたんだ。』
水無月を困らせるだけだと分かっていても、負の感情がふつふつと湧き上がり、文月への苛立ちが口を突いて出る。
『それに、結局アイツは電話に出なかった。今朝になって折り返し掛けて来て、何か有ったのか?そう言われたよ。俺達に女と一緒に居るところを見られていたなんて思いも寄らずにな!』
周は吐き捨てる様に一気に捲し立てた。水無月は無言のまま周を抱き締め、怒りで強張っていた彼の口元を自身の唇で塞ぐ。唇が触れ合った途端に、周の身体から力が抜けていくのを感じ、水無月はゆっくりと唇を離した。
『ごめん。俺…』
「さっき俺が言おうとしてた話を、今、聞いてくれるか?」
『え?ああ。』
「去年、入社式で文月と出会って、アイツを一目見て好きになった。」
『お前が?一目惚れしたのか?』
「うん。驚くよな。俺も自分が誰かに一目惚れするなんて思ってもみなかった。それに文月はノン気だし、男の俺を好きになる筈は無いって思ってた。」
『だけど、そうじゃ無かったんだな?』
「うん…」
『何時(いつ)?』
「え?」
『何時、アイツの想いに気が付いたんだ?』
「周が本社に異動して来た前日。」
『前日…』
もし、俺がもっと早くに水無月に会いに来てたら、今の状況は違っていたのだろうか。
「俺達は入社してからずっと友人として付き合って来た。でも文月を知れば知るほど想いが深くなって、傍に居るのが辛くなった。それに、アイツには普通の恋愛をして結婚をして幸せになって欲しかった。だから距離を置こうと思った。」
(俺も同じだ…あの時、水無月の傍に自分が在てはいけない。そう思って距離を置く事を選んだ。)
『それで?』
「あの日、文月のマンションへ行った時に、毎日会うのはやめにしようって言おうとしたんだ。でも、アイツの笑顔を見たら抑えていた感情が溢れて…気付いたら自分の想いを口にしてた。」
『文月に好きだって言ったんだな。』
「うん。」
『アイツは、お前の告白を聞いて何て答えたんだ?』
「好きだ。恋人になってって、そう言われた。」
文月と水無月の間で何か有ると思ってはいたが、既に想いを伝え合っていたという事実に周は愕然とした。
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