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第76話 鏡の中の男。
怒り・嫉妬・喪失感 様々な感情が押し寄せ抑えが効かない。
『其れが事実なら…いや…もうこれ以上詮索するのは止めておくよ。お前は何の感情も無い相手とでも寝る事が出来るんだな。』
文月は、わざと水無月が傷付く言葉を選んで口にした。
「そうだな…」
寂しそうに笑みを浮かべる水無月に苛立ちが募る。
『其れなら、今夜良いよな?』
「…え?」
『準備が必要なんだろ?風呂に入って来いよ。それとも、一緒に入って俺にして欲しいのか?』
文月から向けられた侮蔑の眼差しに水無月の心が凍てつく。
「いや、1人で入るよ。」
『そうか…』
水無月は立ち上がり、文月の元を離れた。浴室に入りレバーを下げると、シャワーヘッドから流れ落ちて来る湯が水無月の頬を濡らし、溢れ出る涙を隠してくれた。ボディソープの隣にローションボトルが陳列されているのが視界に入り、息を呑んだ。震える手を伸ばし、ボトルを手に取る。
(あの夜…想いを告げてしまう前までは、友人として上手くいっていたのに、告白をした途端に歯車が狂い始めてしまった。文月、俺達…何故こんなにもすれ違ってしまったんだろうな。)
水無月は涙を拭うと、彼を受け入れる為に後孔内を洗浄し、指を挿入した。徐々に本数を増やすも、昨夜周と交わったばかりの秘部は、自身の指を抵抗無く呑み込む。反射的に背面が反り、顔を上げると、鏡に映り込んでいる自分と目が合った。鏡の中の男は、周に抱かれる以前に、見知らぬ相手と肌を重ねていたあの頃の自分と酷似しており、その姿は酷く惨めで、思わず顔を背けた。やり場の無い感情を逃す術が分からないまま、水無月は内壁を丹念に解していった。
下準備を済ませ、浴室のドアを開けると、バスタオルを腕に掛けた文月が歩みを進めて来た。無言のまま濡れた肌を拭かれ、文月の手が布越しに全身を這い回る。身を捩り、逃げようと試みるも、腰を掴まれ中心を擦られた。彼が触れた箇所から熱が広がり、身体から力が抜ける。洗面台のヘリに凭れ掛かると、文月は水無月の裸体を自身の元へと容赦無く引き戻した。
『寝室に行くぞ。』
水無月にそう告げると、有無を言わせず横抱きし、浴室から出て寝室のベッドに彼を放り投げた。戸惑いの表情を浮かべる水無月を尻目に、自身も衣服を脱ぎ去ると一糸纏わぬ姿で彼に覆い被さった。表情を無くし、己を見下ろしている文月に、水無月の顔は強張り、体内から急速に熱が引いていった。
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