7人が本棚に入れています
本棚に追加
1:スキンケア
化粧なんてしたことが無いが、洗面台に立つ俺は、日課の如く容易くこなしていく。洗顔の水は冷た過ぎても熱過ぎてもいけない。必ずぬるま湯で行うと決めているから、水を出し始めてもすぐには顔を洗わない。
蛇口の水に時々手をやって温度を確認し、洗面台の近くにあった薄いピンク色のヘアバンドで前髪を上げておく。ヘアバンドは兎の耳のように天辺で上向きに跳ね上がっている。清純派女優の顔面にあどけない可愛らしさを与えてくれた。
まず洗うのは両手だ。自分の肌に合った薬用石鹸で綺麗に洗う。俺は人生で一番丁寧に手を洗った。赤ちゃんのようにモチモチする繊細な手指をなめらかに洗い上げて、爪の中の埃まで取り除いた。可憐な美少女の手指が綺麗になっていくと嬉しくて、窓から漏れるやわらかい朝日を受けて光輝く自分の手指に惚れ惚れした。
次に、両手にぬるいお湯を自分の顔に引っ掛ける。俺の手はそれだけには飽き足らず、薄い桃色のタオルにお湯を浸すと、耳の内や裏側をこすって垢を落とした。
鏡台だけではなく手鏡を右手に持ち、鼻毛が出ていないか鼻孔を注視して確認する。大丈夫だ。それにしても可愛らしい高くて丸い鼻を見ていると、自分が既に女優であるように錯覚する。
それが済むと、右手を手鏡から洗面台に置かれた化粧水の入った瓶に持ち替える。化粧水を左掌に広げると、瓶を台に置いた右手も使って、顔全体に塗り込んでいく。瞼を閉じ、毛穴の中にすぅっと栄養が沁み込んでいく爽快感が伝わってくると、思わず俺は呟いた。
「気持ち良い!」
自分の声を聞いて、目を見開く。声色まで女の子らしく高い。自分の黄色い声を聴くと、女の子としての自信まで湧き上がってきた。
「すげぇ。俺、超女の子じゃん」
最初のコメントを投稿しよう!