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2:可愛いの苦労
化粧水を塗り終わると、その上に保湿するための乳液を塗り込む。ミルフィーユのように化粧水の層に保湿液の層を塗り合わせると、その上からさらに日焼け止めクリームを重ね合わせていく。10月でも紫外線を防ぐため、夏用よりUVカット率は弱めだが、その分、敏感肌にも優しいSPF30の日焼け止めを愛用していた。
俺がなんでそんなことを知っているのかと云えば、俺がこの子だからだ。
スキンケアを終えてから、化粧に入るまで5分待つと決めている。この間に行うのは歯磨き。スキンケアの体験は中々興味深かったが、歯磨きは男女で変わらないから面白くない。ただ、俺はこの子の歯を丹念に磨いた。
なんて綺麗な白い歯、健康的な赤い舌なのだろう……。
口内洗浄液で口を注いでブラッシング。歯磨き粉のCMもこの子なら出来そうだ。
歯磨きに5分掛けて終わらすとベースメイクを始める。苺鼻にならないよう化粧下地のクリームを『Tゾーン』と呼ばれる額や鼻に重点的に塗り込み、おでこ、頬、顎にも付けて全面に広げていく。この化粧下地にも日焼け止め効果があって、彼女の美肌の維持に役立っている。
次に、ハンドバッグの中から鏡付きコンパクトを取り出し、パフを取り出してファンデーションを塗っていく。
作業はまだ終わらない。ファンデーション上にチーククリームを塗り、さらに刷毛でパウダーをまぶしていく。
これで終わったのは肌だけ。
肌は化粧をして綺麗に見えたが、今度は綺麗な肌のせいで眉毛や目元が貧相に見えている。ハンドバッグからアイブロウペンシルを取り出して眉を書き足し、ペンシルのラインをパウダーでぼかし、鼻筋にノーズシャドウを入れて輪郭を形作る。最後に眉マスカラを入れる。これでも眉が終わっただけ。
今度は目元である。愛用している刷毛で瞼の上にベースカラーを塗り、ベースカラーより少し濃い色も注ぎ足していく。この作業も大雑把な男の俺にはかなりしんどかったが、その後でようやくアイシャドウを入れられるのである。睫毛はしんどいのでやめた。
最後にハンドバッグの中から使い捨てコンタクトレンズを出し、両眼に取り付ける。視力が上がると共にレンズの表面に描かれた模様が瞳の大きさを強調して目力を増す。
ヘアバンドを取り、上げていた前髪を垂らし、手櫛で流していく。これで俺は完全なる清純派美少女の容姿を獲得した。
「可愛いって大変だ」
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