将来の夢

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将来の夢

チラチラと点滅する光にイラつきを覚えながら、スマートフォンを手に取り、タップしてSMSのアプリを画面に起動させた。ブルル、と震えると、次々とメッセージが入ってきた。みな、自分へのお祝いメッセージばかりだった。 それを見て自分が誕生日を迎えたのだと知った。 簡単な言葉で言えば、子供の頃は何にでもなれる気がした。それこそ、今自分には到底辿り着けない幸せ、という形の究極の最終形態にだってなれるだろう、と思っていた。 小学生の時は、ケーキ屋さんでパティシエ。あ、お花屋さんも。中学生の時は現実を少し見始めて、ああ、それでも歌手やアイドルに憧れていたな。高校生ではいい加減大人への現実味を帯びてきていたのだが、そのせいか余計に選択することができないでいて、特にやりたいこともなく、お嫁さんなどと言っていた。 しかし、自分に残された時間はあの頃と比べれば幾分かしかない。 ーー29歳、周りに追い越され、とうにひとりきり。行き遅れた。 あの時の、大学生での自分の人生設計ではもう子供を2人は産んでいる予定であった。 そのはずなのに、なぜ、どうして、と皮肉めいた言葉が頭を蝕んでゆく。 自分の歩いてきた道のりを立ち止まって振り返ってみたら、そうーー何もなかった。 こんなはずではなかった。 素敵な人に巡り合い、結婚して、子供を授かり、出産して、子供のことに悩みながら夫と共に幸せな家庭を築いて...。 現実は、夢も持てず、大学を卒業してからは一般企業に就職して、今まで働いてきた。それでも何も残らなかった。仕事も恋愛も疎かにしていたツケが今になって、思い出したかのようにやってきた。 もっと早く気付かせてくれればよかったのにと自分の年齢を恨むしかない。 たった一度の人生を無駄にしてしまった気分だ。 (嗚呼、かなし)
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