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電車から降り、ホームの階段を見上げた時、その脚はあった。
紺色のハイソックスを履いている。
膝上のスカートから、すらりと伸びた二本の脚。
ふくらはぎには、程よく肉が付き、柔らかいカーブを描いていた。
ハイソックスから、スカートまでの間に覗く肌は、艶やかで滑らか。
ずっと、探し求めていた理想の脚を目の当たりにした時、あたりの喧騒が消えた。
俺は、その場に立ち尽くし、階段を上っていく二本の脚に釘付けになる。
まるで、世界に俺と、あの脚だけが存在するかのように。
立ち尽くした俺を追い越す男の肩がぶつかる。
我に返り、階段を登っていく脚を見上げた。
セーラー服を着ている。
学生なのか。
追いかけなければ、もう二度と会えないかもしれない。
あの脚は、サラリーマンや学生の人ごみに、たちまち飲まれてしまう。
掻き分けながら、階段を登っていく。
すると、前方のスーツ姿の男が、突然立ち止まり、振り返った。
黒いスーツに黒いネクタイ、黒いサングラス、髪の毛はオールバック。
サラリーマンとは思えない風貌をしている。
彼の口元から、白い歯が、にやりと覗いたとき、俺の体は宙に浮いた。
肩を押され、バランスを崩し、足元を外したのだと気づいた。
身体を支えるようなものは、近くにないのに、何かにすがろうと手を伸ばすが、むなしく空を切る。
俺は、あの脚を追いかけなければならないのに。
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