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地下通路は狭く、四つんばいになって歩かなければならなかった。
おっさんが先に進み、後に続く。
顔をあげると、スカートから伸びる、おっさんの太股。
間近で見ても、程よい肉付きで絶妙な曲線、艶やかで滑らかな肌質。
こんなにも完璧な脚が、今、目の前にある。
触れたいけれど、触れる事のできない、禁断の果実。
触れる事が叶わないのなら、せめて目に焼き付けておこう。
脚の持ち主が、おっさんだということは、ひとまず忘れて……
「もう少しですからねー!」
おっさんの声が通路にこだまし、正気に戻る。
「お、おおう」
裏返った声で返事をする。
「しかし、気になりますね」
おっさんが、思い出したように呟いた。
「何がだ?」
「天才ハッカーと呼ばれるあなたが、世界を揺るがすデータよりも大事だとおっしゃったモノが、一体何なのか」
それが、あんたの脚なの!
なんて、言えるはずもない。
「見つけても、手に入れることは出来ないけどな」
「なぜです?」
「……きっと、手に入らない方がいいんだ。ずっと探し続ける事に、意味があるから」
なんて、呟くと
「深いですね」
感心したように、おっさんが答えた。
通路の先から、光が差し込むのが見えた。
進むにつれて、光は大きくなっていく。
やがて、その光は、おっさんのバーコード頭で跳ね返り、辺りを照らす。
満ち溢れた希望が、俺達を包み込んでいった。
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