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01.***騒動***
冷たい風が吹く。
闇が支配する辻で、何かが蠢いた。人ではなくヒトであったもの――かつて人と呼ばれた残滓が揺らめき、人形をまとって笑う。
通りかかった牛車が見えない壁に阻まれて動きを止める。暴れる牛を宥める少年と、牛車の中で恐れ戦く公達の前に、ゆらり人影が現れた。
「ば、化け物じゃ!!」
「ひいぃ……っ」
悲鳴を糧に人影は笑みを深めた。牛車の中で気を失った若者の上に手をかざし、しばらくすると姿を消す。腰が抜けた侍従が這うようにして中を確かめると、主が倒れ伏していた。
「わ……若君?」
恐る恐る近づいた侍従の目に飛び込んだのは、冠から覗く白髪――まだ若い公達は、皺だらけの老人に変わっている。さきほどまで若木のようだった青年が一瞬で枯れてしまった。
「ひっ……」
慌てた彼らに出来ることは、生気を吸い取られた主を屋敷に運び入れることだった。
* ―― * ―― *
欠伸をしながら道を歩く。
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