01.***騒動***

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 大路は人の往来が激しく、それ故に赤茶の髪が目立たぬよう薄絹を被っていた。通常は身分の高い女性が羽織るものだが、陰陽師の中には同様に素顔や姿を隠す者も少なくない。  外から見えにくいのを逆手に取り、もうひとつ大きな欠伸をした。 「真桜(しおう)、眠いのか?」  隣の美人が小首を傾げる。並外れた美貌を平然と晒すアカリは、少年のような無邪気な表情で覗き込んできた。本来は蒼い瞳だが、人形(ひとがた)を纏う際は黒瞳に変えている。  黒髪黒瞳が普通のこの国では、違う色を纏うだけで「鬼よ、化け物よ」と石を持って追い立てられるのが常だった。自衛のために色を変えてくれるよう頼まれたアカリも、それは承知している。  艶のある黒髪は短く整えられ、少しだけ後ろで結んでいた。最近伸ばし始めたばかりで、やっと結べる長さに届いたところだ。 「う……まあ、眠いな」  否定しようがなく、腰まで長い三つ編みを弄りながら3つ目の欠伸をかみ殺した。  陰陽寮は長髪が多い。長い『髪』は『神』に通じる――そんな考え方から霊力が宿る髪を伸ばす。人間に関してはほぼ迷信に近く効力は薄いが、神族は男女に関係なく長髪が普通だった。  事実、長い髪には神力が宿る。神々や眷属はこぞって長い髪を有していた。     
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