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02.***醜聞***
「……昨夜の夜更かしが過ぎた、か」
くすくす笑うアカリの言い方に、ちょっと頬が赤くなる。
妙に色っぽいアカリの唇が紡ぐだけで、同じ言葉でも意味が違って聞こえた。まるで二人で仲良く(意味深な)夜を過ごしたような……閨に通じる艶が滲む。
「ちょ……人聞きの悪い言い方を」
「へえ、随分仲良しだな」
注意しようとした真桜の言葉を、同僚の北斗が遮る。黒髪に焦茶の瞳を持つ日本人らしい外見の北斗は、人懐こい笑みを浮かべて真桜に抱きついた。
がっしりした腕を回して寄りかかる姿は、アカリと裏腹に艶っぽさの欠片もない。まさしく男友達がふざけている姿にしか見えなかった。
だが、気に入らない。
むっとしたアカリが手を伸ばすより早く、真桜が躓いた。只人には見えないが、付き添っていた式神である華守流が風を操り助ける。
『気をつけろ』
「悪い、助かった」
礼を言って隣を見れば、華炎が目を逸らす。足を引っ掛けた張本人だが、どうやら馴れ馴れしい北斗の態度が気に入らないらしい。
そこで原因である北斗ではなく、抱き着かれた主を標的にするあたりが華炎なのだが。
「よくやった」
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