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――「なぁ、俺は出来損ないなのかもしれんな……」
誰も来ない森の中、俺は男と共に雨に打たれながら穴を掘っていた。ふと俺が投げかけた質問に、彼は一旦作業を止め、俺を正面から見つめた。
「私には、答えかねます」
「そうだよな。変な質問して悪かったな、ブラックさん」
男の名前はブラック。自らが統治する町の住人達によって、罰を受け続ける哀れな男。彼の罪とは一体何なのか、それは誰も知らない。
いつもブラックが着ている分厚い灰色の外套は、雨に濡れて黒く染まっている。2人で町の裏にある森に穴を掘った。人が1人入るほどの大きさの穴。俺はここに埋葬される。
「もしあなたが望むなら、私はここに花を手向けましょう」
俺は、俺自身の耳を疑った。ブラックは本来、住人に頼まれたこと以外は行わない。そんな彼が、自ら花を供えようかと提案してきたのだ。
「やめてくれ、ブラックさん。あんたはそんな善人じゃないだろう」
「そうですね」と言うと、ブラックは空を見上げた。雨に濡れることも厭わない彼は今、何を思うのだろうか。初めて見た彼の横顔に、事故で死んだ息子の面影を重ねた。もし息子が生きていたならば、こんな最期を迎えることはなかったのかもしれない。
俺は穴の中で仰向けになった。ブラックはシャベルを持ち、濡れた土を俺の足先から順に太もも、胴へと被せていった。
「あぁ、ブラックさん。やっぱり花を手向けてはくれんか? 誰かの想いに縛られて死ぬのも悪くない」
「……分かりました」
頷くブラックを視界の端に留めながら、額を打ちつける大粒の雨を感じていた。
闇に飲み込まれる前、俺が最期に見たのは冷たい雨を降らせる黒い雲と、無慈悲に作業を続ける男の姿だった。
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