1 暗黒世界制樹

2/21
前へ
/25ページ
次へ
 仕方なくでも何でもいいから、一緒に遊びに来るんだよな。  そこは、可愛いヤツだとみなしてもいい。 「なあに? 虫取りは一人でやるから付き合って欲しいと言ったのは、玲くんじゃなかったっけ。玲くんは、トンボの首を縛って飛ばそうとかするから嫌なのに」  あーあ、遥夏め。  つまらなそうな伸びをして向かって来るのは見えているんだぞ。 「いや、黙って来いって。珍しい昆虫がいるんだ、虫ではなくて、昆虫でいいのだろうか」  俺は、そいつをじっと見つめた。  逃げてしまわないように。 「へえー。クヌギの上じゃなくて下にいるの。分かったわ」  遥夏ったら、又、春日の原に来てまで恋愛小説を読んでいたのかよ。  ここは、虫達の楽園なんだ。  遊び相手は、本じゃないだろう。  白い栞を挟んで閉じ、がさりと草を分け入って来る。  ちょーっと、草の音がうるさいな。 「しっ……」  俺の合図にすかさず、遥夏は、人差し指で口の前にバツを作った。  ぶりっ子したって、ダメだよ。  ん?  遥夏は、無言のまま足が草をかき分けるのにも気を遣っているようだ。  あー。  はい、すみません。  ぶりっ子では、ありませんでした。 「コロムン!」  あ?  俺の足元からか?  何か聞こえたような。  そんな馬鹿なと思うしかないよ。     
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加