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豆腐屋のラッパの音で浅い眠りから覚醒した。風情のある目覚めではあったが、隣では太った女がいびきをかき、無様な寝相を晒していた。そちらは決して趣があるとは言えない。
上体を起こして置き時計を見た。午後四時になろうとしている。
オレは必然性を感じるほどニコチンを欲し、すぐ側のテーブルに手を伸ばしてタバコとライターを乱暴に掴んだ。カチカチというライターの音で友子も目を覚ましたのか、身体の奥底から獣のようなうなり声を発しながら全身を伸ばしている。オレはムキになって煙を吸い込み、ため息と共に吹き出した。友子は再び眠りの世界へと戻っていったようだ。
しまりのない寝顔にかつて感じた可愛らしさは微塵もない。元々肉付きの良い方ではあったが、付き合い始めてからは目に見えて太り続けている。おまけに、髪は似合わないドレッドヘア。ショートカットが好きというオレの好みは知っているはずだが、歌やダンスをするわけでもないのに、ある日突然ドレッドをかけてきた。オレは何とも言えない気持ちをごまかすように苦笑するしかなかった。
友子はオレの嫁ではないし、ましてやオレの所有物でもない。自分の好きな格好をすれば良いし、好きなものを好きなだけ食べれば良い。オレだって同じように好き勝手やっている。しかし、相手に好きでいて欲しいと思うのなら、好かれるための努力だって必要ではないだろうか。時には相手に合わせることも必要ではないだろうか。友子はオレに愛されたいと思っていないのだろうか。
もちろん、オレは愛されるための努力は惜しまない。今現在、その情熱は友子ではなく別の女性に向けられていたが。
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