勝手の中に

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「二人が離れる事になるなんてな。」 「まあ就職したら、そうなることは判っていたからさ。」 「なあ、信矢。」  俺は和哉に呼ばれたので顔を向けると、拳が顔に向かってきた。  咄嗟に右手で受け止める。  二人の左手には卒業証書の筒を握っていたため、次の動作に移ることは無かった。 「ここは殴られる場面だろ。」  和哉の不満げな顔に俺は拳を受け止めたまま答える。 「いや、俺もそう思ったけど痛いのはやっぱり嫌だからな。」  笑い声を溢しながら和哉の手が下がったので、俺は手を離した。  和哉が大きな溜め息をつく。 「どうして、璃緒に告白しなかった?」  俺は自分の耳を疑った。 「は? 何を言っている?」 「今度は本気で殴るぞ!」 「さっきの、本気だったよな?」 「当たり前だろ。俺の親友の不甲斐なさに、鉄槌を打つつもりだったからな。」  本気の目で俺を見る和哉に、自分の気持ちを話すことにした。 「璃緒は和哉のだから、俺が奪うことなんて出来ないだろ。二人は俺の親友だ。今でもその気持ちは変わらない。俺は二人から沢山の物を貰った。おまえを裏切る事なんてするわけがないだろ!」  そう言った後、俺は小さな疑問に気付く。 「ちょっと待て、何で俺が璃緒のことを好きなのを知っている?」  和哉の2度目の溜め息を俺は聞く。 「あのなぁ~。見てれば判るだろ、俺はおまえの親友なんだぞ。そして、璃緒奈がお前に惚れていたのも、気付いていたさ。幼馴染だからな!」 「いや、じゃあ何で、お前は告白したんだよ?」  3度目は溜め息じゃなく、深呼吸だった。 「俺も璃緒が好きだからに決まってるだろ。ワンチャンあるかもしれないだろ? タダでおまえに渡すつもりなんてなかったからさ。」  そう言った和哉は拳を俺の胸に押し当てる。 「俺は、おまえ以外の男に、璃緒をくれてやるつもりなんてないからな。」 「いや、それは俺のセリフだ。俺は和哉と璃緒が幸せになって欲しいと思っていたからこそ、二人の時間に入らないようにして来たのに、今更そんなことを言われても……」
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