勝手の中に

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 俺の胸から手を引いた和哉が笑みを浮かべていた。 「いつも自分勝手で、強きなおまえが、璃緒の事になると、だらしなくなるよな。…まあそれはもういい、信矢! おまえは璃緒の事を幸せにしたいと思っているのか!」  俺は結局、自分勝手な事をまた、和哉に言うのか… 「ああ、俺は璃緒奈が好きだ。もちろん、幸せにしたいと思っている。結婚したいとも思っていた。」  本音を言った後、俺の心は後悔だけになっていた。 「だけど、もう俺にはその資格もないし、遅い…」 「そうでもないさ。」  胸ポケットからスマホを取り出した和哉がスマホの画面を見せる。  ラインの画面で、璃緒とのボイスチャット中になっていた。 「と、言うことだ、良かったな璃緒。」  弓道場の玄関扉が開く音がして、璃緒がスマホを耳に当てながら入って来る。 「うん。凄く嬉しいのだけど…誰が、いつ、和哉の物になったのかなぁ~」  俺と和哉は二人して璃緒に頭を下げていた。 「えっと、いまいち状況が判っていないんだけど、俺は、璃緒奈に告白したって事なのか?」  璃緒奈が「うん。」頷いた。 「ちょっと、待ってくれ。なら、ちゃんと璃緒に告白させてくれ。」  本座から射位の場所に立ち、深呼吸をする。  見上げた空は青く澄んでいた。  弓を構える時と同じように、静かに足踏みの型を作る。  そして、ゆっくりと振り向き、璃緒奈の顔を見つめた。 「璃緒奈の事を愛しています。俺と結婚してください。」 「はい。」  間髪居れずに璃緒奈からの返事が返ってくる。    苦しんでいた胸の痛みには慣れていた。  だけど、今の胸の痛みは初めてで、俺は胸を押さえていた。  息が出来ないほど熱くなっていた。 「告白じゃなくて、プロポーズっておまえさぁ…いや、そんなおまえだからか。」  和哉の嬉しそうな笑みが、俺と璃緒奈に向けられている。 「俺は二人の幸せな姿を見れたから、満足だ。」  俺は、和哉に感謝する言葉が見つからなかった。  俺は逃げていたのに、和哉は俺を見ていてくれた。  感謝の言葉は、璃緒奈の幸せな笑顔で応えると心に誓った。 
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