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刹那、誰かが思い切り扉を叩いた。大きめに何度も叩く様子から、焦っていることが伝わる。僕は反射的に顔をあげた。
「陽向!居るか!?居るなら返事をしてくれ!」
扉の向こうから、聞きなれた声が飛んでくる。それは紛れもない、先輩の声。助けに来てくれたのだろうかと、僕は芽生え始めた安心感に視界が揺らめいた。
「せ、先輩……います……!」
「居るんだな!?よし、待ってろ。今開ける!」
「え、まさか――」
先輩が何をするか想像した瞬間、空気を切り裂くような音と共に扉が開かれた。壊れた鍵の欠片が小気味いい音を立てて床に転がる。
室内に光が差し込み、それはまるで夜明けのようだった。
「陽向!」
先輩が見たこともないくらい血相を変えて僕に駆け寄る。蹲った僕の前に屈みこみ、心配の声を何度もかけてきた。
「大丈夫か!?真面目なお前が時間通りに来ないから心配して……」
僕は暗闇から解放された安心感と、先輩が来てくれたことの嬉しさやら安堵やらで呆然としていた。感情がぐちゃぐちゃに入り混じったせいで、また涙がボロボロと溢れてくる。
「ど、どうした陽向……もしや怪我でも――」
慌てふためく先輩に、僕は思い切り抱き着いた。そして、幼い子供みたいに泣きじゃくる。しゃくりあげているせいで、戸惑う先輩に何も言うことはできなかった。
「……よしよし。大丈夫だ陽向。俺が助けに来たからな」
震える僕の背中を、先輩はそっと撫でてくれる。落ち着かせるように、何度も何度も。その優しさに、胸が締め付けられる。蓋をしかけた感情が、溢れそうになる。何も言わなければこのままでいられたのに、僕の口は勝手に動いていた。
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