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「そうそう! リンゴの方が甘いけど、栄養価は断然こっち。それにこの実は低い木に成るから小さくて木登りの不得意な動物やモンスターも食べられるのよ」
「さっきみたいに潰して食べるんですか?」
ううん、とマリアが首を振る。
「ジュースみたいにするにはかなりの数が必要だから、ほとんどは生食。このドラゴンちゃんには飲んでもらう必要があったから特別かな。お酒に少し風味を足すのに入れたりはするみたいだけど」
「へえ。でも、こんなに美味しいなら、村で売っても良さそうですよね」
村で売買される野菜や果物は全て中央街から仕入れてきたものだ。モンスターがいる森とは言えど、コントラクターなら収集も難しくはないだろう。こんなに近くに美味しくて栄養のある実があるのをほおっておいては勿体無いのではないか。
ヨシュアがそうマリアに伝えると、マリアは首を横に振った。
「それが、この実はもぎ取っちゃうと日持ちがしないのよね。摘み取ったその日に食べる必要があるから、売るのは少し難しいのよ」
収穫した分のみをその日に売る、というのは効率が悪い。次の日に持ち越せないのならばなおさらだ。
「で、ヨシュアはこの実、なんて言うか知ってる?」
「え?」
まじまじと赤い実を手に取る。
「いやあ、そう言えば知りませんね」
「ガマグミって言うのよ」
「……なんと言うか、思ったよりも凛々しいですね」
「こんなにちっちゃくて可愛い実なのにね」
この形状からどうしてそんな名前になったのか。
くるくるとガマグミを回してみるヨシュアを見て、ふふふ、とマリアが笑う。
「これが食育よ」
「へ?」
「こうやって食べているもののことを知って、実際に育てたり食べたり、時には料理したりするの。そうやって、ただ目の前にあるものを食べるだけじゃなく、食べるものを考えて選択して大事にいただく、という考え方を育てましょうと言うのが食育なの」
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