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「おじいちゃんも人助けに使ってもらえていると知ったら喜ぶわ」
「そういう使い方は望んでないかと思いますけど! 人じゃなくてドラゴンだしぃ!」
ヨシュアの悲痛な声をバックコーラスに、マリアは剣の柄を握って底の部分で赤い実をゆっくりと潰す。甘酸っぱい香りが鼻をくすぐる。
「あ、ああ。俺のギヌアース……」
ズリッと剣の柄が椀の底を滑る。思わずヨシュアの顔を見ると、さっと顔を背けられた。耳が赤い。マリアはヨシュアに生暖かく微笑むと、聞かなかったことにして、作業の続きを進める。
丹念に実を潰しながら、皮だけとなった実を除いていく。実から出た薄い紅色の汁が少しずつ椀の底に溜まっていく。大人で一口ほどの汁が溜まると、マリアは自分の髪を束ねていたゴムを抜き取った。はらりと湖の水よりも碧い色の髪が舞う。寝床の一部の干草を自身の髪ゴムで束ね、迷いなく赤い汁を吸わせる。白金の髪ゴムの一部が赤色に染まる。
「マリアさん、それ、コントラクターの証の──」
「もう、コントラクターじゃないわ」
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