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「……であるからして」
担任の国語教師の言葉が右から左へ流れてゆく。
授業が全く耳に入ってこない。
だって、十文字くんが隣にいるんだよ。
冷静になれる訳がない。
十文字くんの隣にいることはこの上ないほど幸せだけど、難点があると言えば、彼の顔をずっと眺めることができないと言うことだ。
それでも、隙を見付けては見てしまう。
つんと高い鼻、キメの整った白い肌。長い睫毛の下のくっきりとした透き通るような茶色の瞳。
彼の事初めて見た瞬間、時間と言う概念を忘れてしまうぐらい目が離せなくなった。
瞬きもできないぐらい、彼の事をずっと目で追ってしまっていた。
ああ、これが好きと言う気持ちなんだ。
誰かを好きになるってこう言うことなんだって初めて知った。
結局他の取り巻きと同じで顔で選んだだけじゃん?
と言われてしまえばそれまでなんだけど。
だけど、この気持ちは間違いなく"恋"だ。
私は彼が好きだ。大好きです。
……と言っても告白する勇気も無い。
話しかける勇気すらないのに告白なんてもってのほか。
何て考えてたら。
……?一瞬、十文字くんがこっちを向いた。
『え、え、え』
いつも自分の視線に気付いて欲しいって思ってるのに、いざ目が合うと…。
ふぁーと体温が顔に集まってきた。
胸がぎゅっと苦しくなる。
目、目、そらさなきゃ…。
突然のことで動揺が隠せなくて、持っていた教科書を落としてしまった。
「大丈夫?」
次の瞬間信じられない事が起こったのだ。
十文字くんが笑顔を向けて教科書を拾ってくれたのだ。
その様子が頭の中で何度も何度もスローモーションでリピートされる。
「あ、あ、あひがとう、ございふぁす」
「どういたしまして」
あひ。
まただ。
キラキラのフィルターがかかった笑顔が私を包んでくれる。
神様これって夢ですか?
十文字くんの笑顔を二度も見られるなんて。
しかも、私だけにに見せてくれた笑顔。
脳裏に焼き付け心に保存した。
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