叶うはずのない恋

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怖い、そうだ、今の十文字くんは怖い。 「何を黙っている?こそこそされるのは好きじゃないんだ」 「あ、あの…ご、ご、ごめんなさい」 喉の奥から必死に出たのはカラカラの声だった。 「まぁ、いいや。何かさ、女って面倒なんだよな」 「え?」 「どうせ彼氏とかアクセサリー感覚で選んでるんだろう?人より違ったちょっといい物を隣において優越感に浸っていたいだけだろう?」 何、この人…。 私が見ていた十文字くんはこんなんじゃない。 てか、女の子のことそんな風に思われたくない。 「違う、そんなんで告白なんてしない、きっと悩んで悩んだ挙げ句頑張って…」 そこまで言ってからはっと我に返った。 私、十文字くんに向かって何てこと…。 「へぇ」 十文字くんは口の端を少しだけ上げると、面白そうに笑った。 「鈴野瀬美咲、なかなか面白い。ちょうどいいからしばらくボクの彼女にならないか?」 はひ? な、何、今何言われた? 「これ以上誰かに告白されるのも迷惑だったからちょうどいい」 それだけの理由で? 「人の告白を盗み見た罰だよ。君に断る権利は無い、それに」 全てを飲み込めなくて何だか分からない私の後ろの壁に右手をつきながら言った。 「ボクの命令は絶体だ」 圧倒的な強い口調で支配しようとする彼は最早私の知る十文字くんでは無かった。 『ボクの命令は絶体だ。鈴野瀬美咲。お前は今日からしばらくボクの彼女だ』 放課後の屋上で、片想いしていた十文字佑樹くんに言われたあまりにも衝撃的な言葉が今だに信じられなくて、日付けを越えた今でも頭の中をグルグル回っている。 昨日そんなこと言われる前までは目を合わせることさえできないほどの距離感があったのに。 これが本当の告白なら死んでもいいぐらいの幸せを噛み締めているはずだが、彼は私の事など全く好きではない。 と言うか何とも思っていない。 十文字くんはただ単に女の子に告白されるのが面倒くさいから、彼が告白されるのを盗み見していた私に彼女の振りをしろと、そう言うのだ。 それってとても残酷なことじゃない? 私は十文字くんの事が好きなのに。 好き?好きなのかな? 本当の彼を知った今でも…?
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