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「おはよっ…と」
翌朝、教室に入るなり親友の優美に肩を捕まれて体勢を崩してしまう。
「ちょ、ちょっと美咲来て」
いつも落ち着いている優美が珍しく早口で私の腕を取り、屋上まで連れて行かれた。
屋上の扉を開き、誰もいないことを確認すると、大きく肩を上下に動かすと、堰をきったように言った。
「美咲、あなた十文字くんと付き合ってるの?」
思いがけない優美の言葉に言葉が出てこなかった。
「昨日図書室で美咲と十文字くんが二人でいるのを見た子がたくさんいて…十文字くんが女の子と二人でいるとこなんてみんな見た事ないから」
優美はそれだけを一気に捲し立てると、ぐぃと私の目を覗き込んだ。
真実を知りたいと言うように真っ黒の大きな瞳が数回瞬きをした。
優美は小学生の頃からずっと一緒でとても大切な私の友達。
どんな時も私を支えてくれていた親友。
彼女には嘘をつきたくない。
「あのね、優美…」
私は事の全てを話した。
十文字くんへの告白を盗み見た事で彼の許可が降りるまで彼女の振りをしていないといけない事。
「それで美咲は辛くないの?」
最後まで何も言わずただ黙って聞いてくれていた優美が言った言葉は、私の心の中を見事に見抜いた一言だった。
「このままその関係続けていったら素直に告白する事難しくなるんじゃない?」
それは私が恐れていること。
もし、本当にもしもだけど、告白する機会がきて、『十文字くんのこと前から好きでした』なんて言ったら十文字くんはどう思うだろう?
彼だって素直に受け入れてくれないのではないだろうか?
自分の事を好きな相手に偽の恋人の振りをさせていたなんて、少なからずいい思いはしないはずだ。
それに相手は『女なんてめんどくさい』と言っているあの十文字くんだ。
自分で告白のハードルを上げてしまったのだ。
「優美ーーーー」
「泣かないの。全くしょうがない子だね。仕方ないからこの際このままの関係を続けて、逆に十文字くんに美咲の事を好きになってもらおう」
半泣きの私の肩を『よしよし』と温かく抱き締めてくれる優美の優しさに頷いた。
*********
教室に戻ると既に十文字くんは自分の席に座っていた。
「おはよう」
隣に戻ってきた私にいつも通りの綺羅やかな笑顔を見せてくれる十文字くんが眩しすぎて目を合わせられない。
「…おは、よう、ございます」
「まだ敬語なの?」
クスクスと笑う十文字くんも毎度のこと。
彼女の振りをするようになって、以前よりは近付いたとは言え、私と十文字くんの関係は変わらない。
十文字くんが隣にいるだけでこんなにも心臓がバクバクするし。
いつものように喉がカラカラになる。
好きって気持ちが身体中から溢れ出てきてしまいそうで苦しくなる。
苦しいのに、その苦しさが全然不快じゃない。
「何をじっと見ている?」
私の視線に気付いた十文字くんが聞いて
くる。
「あ…えっと」
「ボクの顔に何かついているのか?」
「いえ、何も…」
困ってしまった私は視線を下にずらした。
「じゃあ、何で見ている?」
言えと言うような強めの口調で、これは答えないと後々大変だなと思い、小さな声で答えた。
「えっと、十文字くんはいつも輝いているなって」
「何だそれ?」
拍子抜けしたように彼はクスクスとまた笑い続けた。
「と言うか、あまりボクを見るな」
そこで、一旦区切り、鼻の頭を掻きながら言った。
「授業に集中できなくなるだろう」
え?陽の光のせいだろうか?
十文字くんの頬が少し赤く見えた。
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