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「今日は早く終わらせようとしたのに、またこんなに遅くなってしまってすまなかった」
夜の帷に包まれた校舎で、十文字くんにそんなこと言われるとどうしていいか分からなくなる。
「だ、だ、大丈夫です。こ、こちらこそ今日も勉強教えてもらってありがとうございました」
今日も放課後、十文字くんと図書室でテスト勉強をしていた。
こうして一緒に過ごして分かったこと。
十文字くんは何事にたいしても一生懸命なんだな、って。
常に成績トップの十文字くんがこんなに一生懸命勉強している姿想像すらできなかった。
その事を十文字くんに伝えると、
『何に対してもトップになることを義務づけられている家庭に育った』
と、優しく答えてくれたけど、こちらを見る瞳には、『これ以上聞くな』と言う強い光を感じた。
私、本当に十文字くんのこと何も知らなかったんだな、とつくづく思ってしまった。
初めは、十文字くんの意外なとこを見て戸惑ったりもしたけれど、今は十文字くんのこと前よりも好きになっていた。
昨日よりも今日の十文字くんが好きになっていた。
「くしゅん」
急に吹いてきた強い北風のせいでクシャミが出てしまった。
「今日も冷えるな」
12月に入ったばかりの最近とてつもなく寒くなってきた。
もっと防寒してくれば良かったかな?何て思ってたら。
ふと十文字くんが立ち止まり、自分のマフラーを外し、私の首に掛けてくれた。
「え?はひ?」
「テスト前に風邪でも引かれたら今日までの勉強が意味無いからな」
赤茶色の柔らかいマフラーから、十文字くんの匂いがした。
どうしよう、嬉しすぎて完全に心臓が止まった。
こんなことされたら涙腺ユルユルになっちゃうよ。
「ど、どうした?」
今にも泣きそうな私に気付いた十文字くんが珍しく慌てていた。
こんな風に慌てる十文字くんも初めてで少し可愛いとまで思ってしまう。
そんな十文字くんを見て涙腺が崩壊する。
「は、はいがほうございまふ(ありがとうございます)」
「そんな泣くほど喜ぶことじゃないだろう?」
「ふれひいでふ(嬉しいです)」
涙で十文字くんの顔が歪んでるよ。
十文字くん、十文字くん、私十文字くんが大好きです。
いつかちゃんと告白できるように、今は心の中で呟いていた。
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