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本編
森を包み込むようにフクロウの鳴き声が響いた。窓枠をかたどる四角い光が、静謐な空間に落ちている。
煌々と差し込む明かりをたどって、おとがいを上げたレイの金眼に、わずかに欠けた大きな月が映し出された。
昨夜は満月だった。
月が膨らんでいくに従い、レイの心は無防備に揺れ動く。人が月の満ち欠けに影響されるというのは迷信ではないだろう。もっともレイは人間ではなく、バケモノと呼ばれる類の存在だ。
月明かりにかざした腕は、白い包帯でぐるぐると巻かれている。
腕だけではない。全身が白布で覆われ、ところどころのぞく素肌は死体のように血の気がなく、くすんだ紫色の痣を散らしている。
唯一金色の長い髪と瞳だけが、ささやかな色味を添えていた。一目で人ならざるものとわかるだろう。
醜い。あまりにも醜悪な己の姿に吐き気を催す。
孤独と自己嫌悪に苛まれながら、長い年月を無為に過ごすレイの姿は、まさに呪を施した者の狙い通りとなっていた。
レイにも人間だった時代がある。もう百年ほど前のことだ。
田舎の領主の屋敷で執事をしていたレイは、家人と共謀し、暗殺を企てた罪で裁かれた。主人に毒を盛ったという身に覚えのない罪で。
与えられた罰は、レイにとって死よりも重いものだった。
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