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レイが死にかけた子供を拾ったのは、十二年前の夜だった。
バケモノに姿を変えられてからは、隠れるように森の奥で暮らしていたが、時折孤独に追い詰められ、胸をかきむしりたくなる夜があった。
人は一人では生きていけない。バケモノになっても心までは変わらなかった。
ぬくもりが恋しい。誰かと言葉を交わしたい。そんな欲求から、年に一度やってくるハロウィンの夜だけは、街に降りるようになった。
仮装をした人たちに紛れれば、レイの外見を訝しく思う者はいない。見知らぬ相手と言葉を交わし、時には一緒になって酒を飲んだり、ダンスに興じることもあった。
たとえ束の間でも、まるで人間に戻れたかのようなひと時が、レイにささやかな癒しをもたらした。
そんな一夜の夢を名残惜しく思いながら、森へと引き返す帰路での出来事だった。
レイはその日、ハロウィン祭で振る舞われたバーンブラックという菓子を初めて口にした。
ドライフルーツのたっぷり入ったケーキを頬張ると、生地の中から指輪が現れて目を丸くした。他にも何か隠されているらしく、出てきたモチーフで運命を占う食べ物なのだと教えられた。
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