空はいつも同じで……

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「ずっと生きてきたってことは、何回満月を見たんでしょうね?」  その感情に少しでも触れたくて、侑平は少し意地悪な質問をする。 「さあ。電卓を持ってこればいいんじゃないか」  が、礼門はあっさりとかわしてくれる。さすがに宇宙物理学の准教授に、この質問では無理か。計算しろで終わってしまった。 「他の日も、印象的な夜空ってありましたか?ずっと生きてきたってことは、戦国とか幕末とか、大変な時代も見てきたんですよね?」  だから、侑平はより直接的な質問をぶつけていた。感傷的になっている時にしか話せないだろう、本音に触れたい気持ちが強くなっていた。 「戦国な。今思い出しても腹立つ出来事の連続だった」 「?」  が、礼門から漏れてきたのは怒りの波動。一体何があったんだろう。気になるが、何となく訊きにくい。  侑平がドン引きしていることに気付き、礼門はごほんと、わざとらしい咳払いをした。 「たしかに色んな時代を生きてきたな。みんな、過ぎ去っていった。同じように、こうやって空を見ていたのに。が、そういうものだと、思うようにしている。俺はその流れに乗っていないんだ。彼らは今、どこかで違う人間として生きているんだしね」  それが、輪廻転生というものだろと、礼門はにこりと笑った。でも、その笑顔はどこか悲しい。
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