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そして気付く。この人も同じくらいに傷ついているのだ。侑平の身に起こる、総てを知る先達であるからこそ、深く傷ついている。
「いいんです。俺にはこうして、月をずっと傍で見上げてくれる人がいますから」
「ーー」
それに、今度は礼門が何も言えなかった。ずっと傍に。今まで願っても届かなかったもの。それが、皮肉な形で手に入ろうとしている。なんと、罪深いことだろう。
そのまま二人はしばらく、満月を見つめていた。が、後ろががさごそと騒がしいことに気付く。
「何だ?」
「何でしょう?」
二人が同時に振り向くと、鬼の一生がじどっと睨んでいた。一体何事だ。
「今日。十五夜なんだけど」
「ーーなるほど」
騒がしい理由はそれかと、二人は頷く。
「急にしんみりモードとかなしだよ。薬師の団子出来たよ~って、脅かそうと思ったのに~」
悔しいと、イタズラ好きの鬼である一生は叫んだ。どうやらずっと背後でタイミングを見計らっていたようだ。ああ、そうですかと、侑平は呆れるしかない。
「こらこら。ま、難しいことは横に置いて、団子を食べながら中秋の名月を楽しみましょう」
そこに薬師如来が山盛りの団子を持って現れた。上には美味しそうな餡子がたっぷり掛かっている。
「全く。愛の告白かと思ったのに。これから二人で手を取り合って永遠に生きていましょう。ああ、いい絵になってたのに」
さらに後ろから、弥勒の腐女子発言。おかげで場は一気にいつもどおりだ。
「それに今は、騒がしい仲間がいたな」
「ですね」
もう、寂しく満月を見る必要はないのだ。礼門は少し安堵し、もう一度、今度は楽しい気持ちで夜空を見上げていた。
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