遠く、遠く、遠く

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 私たちはユーザー設定とか、よくわからないから、パソコンの電源を入れれば、すぐさま共有のデスクトップ画面が現れる。壁紙に設定しているのは、買った当初から変わりない、黄色い花の画像だった。いつもはその黄色い花の上にごちゃごちゃとさまざまなアイコンが並んでいるのだが、今日のそこには、アイコンが何にもない。たつた一つ、画面の真ん中にぽつんと、テキストファイルが置いてあるだけだった。テキストファイルの名前は『未恵』。私の名前だ。姉のつまらないいたずらだろう。たまに仕掛けてくる。私は何の違和感もなく、姉のいたずらを覗き見するような感覚で、テキストファイルを開いて、ただ、絶句した。 『未恵、私、死のうと思う』  それは、そんな言葉から始まっていた。以下は淡々と、そう思った経緯が綴られている。  姉の入った学部は、男女比に偏りがあって、女子学生より男子学生の方がずっと多い。そして姉は人懐こく、甘え上手。……それが、一部の女子生徒から強い反感を買ってしまったらしく、嫌がらせを受けるようになってしまったらしい。それが、大学一年生の春のこと。姉は、嫌がらせを、もう一年と半年近く受け続けているということになる。  無視される。授業中、座っている椅子を蹴られる。持ち物がなくなる。そういった嫌がらせは、徐々にエスカレートしていき、嫌がらせの範疇を逸脱していく。ここに記すことにすら抵抗を覚えるようなことを、数え切れないほどされたと、姉の綴った分の中にはあった。それら嫌がらせにより、姉の精神はどんどん壊されていった。     
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