遠く、遠く、遠く

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遠く、遠く、遠く

 大嫌いだった姉が死んで、一年と一週間。また、秋が来た。  駅前の高層ビルやタワーマンションが立ち並ぶ区画を抜けてしばらく行くと、景観は一気に変わる。元商店、元会社、そういった建物がかなりの頻度で目に入るようになる。営業していると窺える建物はほんの一握りに限られていて、たとえ営業していても、建物の中はひどく閑散としている。そんな、廃れつつある寂しい場所が、この町だ。  それらを横目で眺めながら進むと、やがて、五階建てのビルが見えてくる。  古めの家屋に挟まれて、剥き出しのコンクリートの壁にはヒビが走るそのビルは、周辺の建物の中でも取り分け古びて見えた。かなり前に潰れてしまった建築会社だったそこは、すっかり色褪せた看板が今も掲げられたまま。入口は封鎖されているが、その前にはいくつか花束が供えられている。姉の好きだったコスモスの花を中心とした花束は、一見そうは見えない色合いでまとめられているけれど、供花だ。 ……姉は、ここで亡くなった。  病院の霊安室で見た遺体はとても綺麗で、死ぬのって、こんなものなんだなと、がらんとした頭の中で思ったことを、妙に印象深く覚えている。  姉は自殺したと、警察は言った。いろいろ調べた結果らしい。そう結論付けた経緯についてかなり仔細に話してもらったことはぼんやりと記憶しているが、そのほぼすべては、この一年と一週間の間に全部なくしてしまった。  大事な情報を、記憶を、あっさりなくしてしまったわけは、きっと、私が知っているからだろう。  姉は、殺されたのだ。
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