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「私はいつも醜い灰色の石を思い浮かべていた。ごつごつして輝きなんて少しもない、くすんでみっともない石。それが私。それを十年という時間で、少しずつ少しずつ磨いていったの。他の同い年の女の子たちが、無邪気に愚かしく遊び回ったり自分を飾り立てたりするのに夢中になっている間、私はその石からきちんと宝石が出てくるのかどうかずっとびくびくしていた。ありきたりの宝石では足りない、一目で心を奪うような美しい石に磨き上げられるかどうか、そのことばかり考えていた」
美咲は唇を閉じると、目には見えない彼女の輝く石を乗せていた手を軽く握り込み、自らの方へと引き寄せる。それから、その手の内の中にあるものをじっくりと吟味しているかのように目を伏せたあとで、決意を込めた強い眼差しに変えて、手を差し伸べた。
「これが私の十年。全部、ここに来るための。こうして会いに来るための、十年」
その差し出された手が深遠な意味を含んでいるのは、もちろん大輔にはわかっていたし、生半可に握ってよいものだとは露とも思っていなかった。だから、美咲のことを思うのなら、その手を握るべきではなかった。大輔は、幼い頃の彼女を知らなかったら、少なくともこんなにもありありと思い出せなかったら、よかったのにと考える。そうしたらきっと、この手が微かに震えていることや、瞳の奥の強張りと怯えに気付かずに済んだだろうから。
大輔は、悟られないようにひとつ息をしてから、返事をした。
「少し驚いたよ。十年前では思いもよらないほど、君は知的で、綺麗で、素敵な女になった。男なら誰でも恋人にしたいと思うような、そういう素晴らしい女性になったよ」
だけど、と大輔はまっすぐに美咲を見て言った。
「成長することと、元からあった年の隔たりを埋めることは、イコールにならない。君は確かに魅力的な女性になった。だけど、僕と君の間に十年の年の差があることは、たとえ何年経とうと、どれほど努力しようと変わらないことなんだよ。それはすごく、残念なことだとは思うけれど」
でも、とか細く、けれども鋭い声が部屋に響く。
「あなたのための十年だった」
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