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気持ちよく晴れた空の下を、美咲は新しく習った歌を口ずさみながら歩いている。住んでいるマンションまであと少しというところの、住宅街らしい車の通りが少ない道路で、等間隔に街路樹が植えられて、白く細い柵が歩道と車道を分けていた。美咲は、反対側の歩道に見慣れた後姿を見つけた。嬉しくなって声をかけようとしたところで、少女の笑い声が聞こえて、はっとする。
街路樹の陰から、大輔と同い年くらいの少女が現れた。その手は当たり前のように大輔の腕に組まれて、慣れ親しんだ者同士の心許した笑顔を浮かべている。大輔が少女に向かって何かを言うと、彼女は頷いて腕から手を離した。じゃあ、と大輔の唇が動き、手を振る動作を交し合ったあとで、大輔は歩き始める。美咲がなぜだかほっとしたのもつかの間、少女の手が再び大輔の腕をとった。
美咲には、その少女がどういうつもりなのかなんて少しもわからなかったけれど、大輔は振り返って彼女の微笑みを見た瞬間にわかったらしい。いつもの笑みとは少し違う、はにかみを含んだ笑みを浮かべる。大輔がそんな風に笑うのを、美咲は初めて見た。それだけでもう心は痛んでいたのに、大輔は少女の頬に手を添えると、静かに顔を寄せた。
制服のない高校に通う大輔は、薄い緑色のポロシャツを着ていた。年齢の割に背が高く、普通の大人かそれ以上の身長だった。そんな姿で外を歩いていると、まるで大人みたい、と美咲はずっと思っていた。そう思うことに、胸の痛みを伴うことなんて、そのときまではなかったのに。
少女の方は制服こそ着ていたものの、間違っても大輔の膝の上に収まるような幼さはなかった。肩も腰もまろみを帯びて、胸は服の上からでもわかるふくらみがあって、手足はすらりと長い。そして、つやつやとした黒髪をまっすぐにのばした横顔は、紛れもなく美しかった。
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