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善也の腕に抱かれながら、美咲はじっと考え込んでいた。少年は、その額を美咲のそれにつけて静かに息をしている。こうして腕に抱いているのだから、すぐにでも美咲の唇を奪うことができるのに、善也は寸前のところで留まり、許されるのを待っていた。彼がこの年齢の少年にしては、類稀な誠実さの持ち主だと、美咲は気付いていたし、このまま受け入れてしまったほうが、ずっと幸せだともわかっていた。
けれども、やはり美咲は瞼の裏に大輔を思い描いてしまう。その温もりと、いま感じる熱との違いを考えてしまう。それが、この少年によって掻き消されるものだとは、美咲には思えなかった。だから、美咲は善也の胸を押し戻した。彼はもはや強いず、悲しげに笑った。
それを見て、美咲はいかにこの優しい少年を傷つけたのかを知った。その傷は、美咲を耐え難く痛めつけているものと同質のもので、誰よりもその痛みをよく知っている。善也と別れてから、美咲は泣いた。本当はそうして泣く権利などないほどに、ひどく汚らわしい女だと美咲は思う。自分の愚かさを呪い、この上なく嫌悪した。それなのに、美咲はこれしか知らないのだ。
これが私の恋。自分ではもうどうすることもできないほど醜く膨れ上がった、愚かしい妄執。それを終わらせる唯一の人を目指して、決着のためだけに十年を駆け抜けた。だから、応えて。どんな形へ行き着くのだとしても。
ようやく追いすがって掴んだ腕の中で、美咲はそんなふうに繰り返し唱え続けた。
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