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この構図が二人のあるべき姿だと大輔は信じて疑わなかったし、美咲もやがてもう少し大人になればそのことに気付くものだと思い込んでいたのだ。本当に、成長した美咲が思いつめた目でやってくるまでは。
明け烏が鳴いた頃、またケータイが震えた。明滅の光とともに浮かびあがった香織の名前に、もしかしたら一晩中起きていたかもしれない、と思う。だが、まるで地球の裏側にいる見も知らないものを思うみたいに、まるで現実の質感がなかった。
香織は、大輔の上席者の娘だ。日ごろから、特に目をかけてくれていた人で、ある日、今夜二人で飲まないか、と誘われた。そういうことはしょっちゅうだったので、なんの疑いもなく行った先で、見慣れない女性がいたのだ。それが、香織だった。
大学を出て二年になる娘でね、たまたま近くにいるというんで、来させたんだよ。同席しても構わないかな?
そういった上司の隣で、香織が恥ずかし気に微笑んだとき、つまりはそういうことなのだと、大輔は勘付いた。心構えをするには、ほんの一瞬目を伏せるだけで事足りた。もちろんですとも、と言いながら作り上げた微笑みは、自分でも呆れるほどによく出来ていた。
その夜、ごく当然のなりゆきのように連絡先を交換し合い、休日には二人で会うようになった。
香織は、ありふれた魅力的な女だ。生まれも育ちも東京で、一人娘。仕事の時には温和と言い難い上司が、家庭では、特に娘に対しては違うらしいとすぐに気付くくらい、香織は誰が見ても愛情を注がれて育った娘だった。
そのためか、香織は少しばかり他者への思慮に欠けるところがあるけれども、言い換えればそれでも許されるくらいには、周囲に愛される気質が備わっているということだろう。明るい表情がよく似合う、まず美人の範疇に入る容貌は、間違いなくその一つだ。そんな彼女は、恐らく大多数の目に好ましい女性として映る。
けれど、大輔はときおり思うのだ。いま、香織を香織足らしめているもので、時間の経過に奪われないものは、いったいどれくらいあるのだろう、と。たとえば、容貌の美しさならば、それは若さが失われると同時に、その輝きを少なからずある程度損なわれる。それでもなお、周囲を今と同じく惹き付ける何かを、たぶん香織は持たない。
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