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美咲に再会してしまった今夜は、なおさらその印象が強くなる。香織が、人生から諸々を受け取ることになれた女性なら、美咲は、自ら定めたたった一つの目標のために、人生から手を伸ばしてあらゆるものをつかみ取ってきた少女だ。それらはきっと、たとえどれほど時間が流れても、けっして美咲を裏切ることはしないだろう。
そういう物事は、考えても虚しいことだと大輔は知っている。世の中には、一過性の、大部分は若さとともにある、何かすら持ち得ない人間が大多数なのだ。こんなふうに考えている自分だって、半永久的に価値あるものが備わっているとは、大輔には思えない。
現に思い返せば、そうとは気付かないうちに無くしてしまったものがある。それは、既に後ろへと流れ去ってしまった時の向こう、さほど遠いとも思えない彼方に目を凝らせば、すぐに見つけられる。なのに、もはや取り戻すことができない。
大輔は、自分の将来のほとんどを、ある程度の視野の明るさを保って見渡すことができる。今年はたまたま東京にいるけれども、来年からはまた国中の街を転々とするだろう。そういう忙しない日々のどこかの時点で、きっとあるべき形で香織と家庭を持つことになり、どこかの街から別の街へ動くごとに少しずつ肩書きが上がっていって、しかるべき時期にまたこの都市に帰って来る。
走って手を伸ばせば届くもの、どこかで何かを怠れば遠ざかるもの、そういう細かなものまで、大輔は見通せる。それはある種、人から羨まれるものかもしれないけれども、大輔はどことなく惰性の世界だと思っていた。
まだ昔と呼ばなくていいはずの過去では、もう少し物事や世界は活気を帯びていて、毎日の朝の訪れはより晴れやかに清々しく、夜の深まりには肌を通して全身へと行き渡る、はじけるような期待が潜んでおり、頭の中にも手足にも常に真新しい何かがざわめいていた。
しかし、それらはそうと気付く間すら与えずに手の平から零れ落ち、二度と還らない遠くへと流れ去ってしまっていた。
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